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赤字900億円の衝撃「2位」メーカーの実力予想を超えた実態94年11月4日夕刻。 東京・大手町の経団連機械記者クラブでは、自動車担当記者のため息がもれていた。
N産の業績はこんなにひどいのか。 「非常に残念な姿になりましたが、この上期で完全にアク抜けし、捲土重来の体制を整えました。
下期から95年度にかけて反転します」94年度中間決算の記者発表に臨んだH専務は、N産自動車の経営状況が改善し始めていることを懸命に説明した。 だが、その説明は多くの記者の耳にうつろに響いたことだろう。
それほど業績数字は事前の予想を超えて悪かったのだ。 売上高は1兆5688億円と前年上期を12%下回り、本業のもうけを示す営業損益は826億円の赤字。
赤字幅は前年上期の386億円を大きく上回った。 さらに金利負担を加味した事業全体のもうけである経常損益の赤字額も、579億円(前年上期は289億円)に膨らんだ。
しかし、実態はもっと悪かった。 決算短信に記載している経常赤字の数字は、手持ちの有価証券を売って、「お化粧」した結果だったからだ。

有価証券を売って得た利益は328億円。 化粧をはがした本来の経常赤字は実に907億円に膨らむ。
化粧をはいだ赤字額は940億円となる。 記者たちはこの実力の数字に目を奪われたのだ。
その半年後、95年5月26日に発表した94年度通期(95年3月期)決算では、売上高が3兆4075億円(前年度比5%減)、経常赤字は611億円(前年度は41億円の黒字)となった(N産はほんの数年前、90年3月期には過去最高の経常利益、1843億円を記録している。 バブル期に盛り上がった自動車ブームとその崩壊によって、日本第2位の自動車メーカーはわずか5年の聞に天国と地獄の両方を経験した。
N産の実力とはクルマ大国日本で、N産自動車は長い間、Tタ自動車と並ぶ存在とみなされてきた。 しかし、同社は現時点で、どれくらいの力を持っているのだろうか。
日本の業界トップのTヨ夕、3位のM菱自動車工業と比較すると、N産の「2位」の実力が浮かび上がる。 わずか0.4倍弱しかなく、一方、M自工(94年9月中間期)はN産の0.8倍弱まで追い上げている。
次に成長性をみてみると、過去5年間の年平均増収率がN産はマイナス3.6%。 これに対し、Tタは17%、M菱は6・0%プラスとしっかり成長している。
収益性はどう、だろうか。 N産が赤字のため、利益率同士を単純に比較できない。
コスト競争力の観点から、売上高に占めるコストの比率(低いほどコスト競争力がある)で比べると、まず、売上原価の対売上高比率は、Tタが89.6%、M菱88.3%に対し、N産は89.6%。 比率の数字だけをみるとN産が特別悪いというわけではない。
ただ、販売費・一般管理費を比べると、その売上高に占める比率は、Tタ8.3%、M菱9.9%に対して、N産は15.6%に跳ね上がる。 また、原価のなかの労務費(ブルーカラー)をピックアップし、対売上高比率を比べても、Tタ5.4%、M菱6.5%に対して、N産は7.7%と高い(製造原価明細書が整っている94年3月期本決算で比較、Tタは94年6月期)。
N産は人を中心に高コスト体質であることが一目瞭然。 規模はともかく、成長性、収益性など質的な面で、N産を2番目に強い企業とみることはむずかしい。

94年度の中間決算でN産の営業赤字は前年同期に比べ400億円超も拡大したが、なぜこれほどまでに悪化したのか。 400億円といえば、H田技研工業のここ数年の年間経常利益より大きな金額だ。
N産の営業損益がどのような要因で変動したのかを分析すると、次のようになる。 売上減少によって700億円、為替差損で400億円余り、合計1000億円のマイナス(減益)要因があった。
これに対し、原材料費で400億円、製造費用で300億円カットし、合計700億円のプラス(増益)要因があったものの、吸収しきれなかった。 同じ時期の他メーカーの利益変動要因と比べてN産が際立っているのは、売上減少による利益減が大きいことだ。
他メーカーはむしろ、円高による為替差損が大きな減益要因となっている。 たとえば、M菱自工の94年9月中間期の場合、売上減少による利益減は10億円、一方、円高による減益が300億円。
これらのマイナス要因を、350億円にのぼるコスト削減(プラス要因)で吸収した。 すなわち、他メーカーは海外ビジネスが問題となっているのに対し、N産の問題点は国内ビジネスにあるということができる。
注目集めたN村総研リポート「95年後半に自動車株相場をリードするのはN産自動車」。 95年2月20日、N村総合研究所がこんなタイトルのリポートを発表し、株式市場で注目を集めた。

リポートの骨子は「N産は97年3月期に経常利益1000億円まで回復する」というもの。 業績の変化率が大きいことから、市場ではN産株の値上がり期待が高まった。
リポートを作成した同研究所のIアナリストは次のように議論を進める。 Vコスト削減は「リストラ計画」(93年2月発表)通り進んだが、円高と販売不振によって合理化効果が帳消しとなったVプロダクトアウト(作る会社)からマーケットイン(売る会社)へと経営革新を進めており、販売回復の体制が整いつつあるV販売回復によって、営業損益が2000億円改善し、97年3月期は1200億円の黒字(95年3月期推定は800億円の損失)になり、経常利益は1000億円まで回復するリポートはこうした議論の展開を補強するため、Tタといくつかの数字を比較し、N産のコスト削減がTタのそれに比べ負けていないことここ数年、Tタとの収益格差が聞いているように見えるが、「実質経常利益」の差は長期的にそれほどかわっていないことを示している。
たしかに、N産のコスト削減は計画通り進んできた。 93年2月に発表したリストラ計画によると、同社は座間工場の閉鎖従業員数の削減車種・車型の削減などの策を実施し、3年間で合計2000億円のコストダウンを目標としていた。
これに対し、実際のコストダウンは目標を上回るペースで進んでいる。 過去2年間をみると、93年度の製造コスト削減額は1500億円、94年度は上期で700億円カットし、通期では1400億円削減したとみられる。
2年間の合計額は2900億円にのぼる。 Tタは同じ2年間に、コストダウンを3500億円強実施しているが、売上高に対するコストダウンの比率でみるとTタは5.3%に比べ、N産は8.5%となり、N産の削減額はかなりの大きさ、というわけだ。
また、Tタとの収益格差は確かに、93年度から94年度にかけて比べると拡大するが、「現在の格差の規模は決して過去10年間におけるピークの水準ではない」とリポートは指摘する(表Ill-2)。 名目上の経常利益は株式売却益などで「化粧」される可能性があるので、経常利益から資産売却益を除いた「実質経常利益」で両社を比較すると、過去10年間、常にTタの方がN産より、4000億円前後大きかったことがわかる(84年度から93年度までの10年間の平均格差は4000億円)。

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